ビターチョコレート
「はい、なんだか…私が産まれた時から決めてたみたいで」


「産まれた時から?…お見合い結婚するって?」


「そうじゃなくて…ゆうちゃんと……」


「ゆうちゃん?」


初めて聞く名前。ちゃん付けやけど、女では無いと分かった。


「ゆうちゃんって、幼なじみなんです。昔から親同士が仲良かったみたいで」


それを聞いて、俺とは少し、状況が違う事に気付いた。


「…お前それ、お見合いってゆうより、婚約者やがな」


「…そ、そうでした。」


チーン。と、どこかで音が鳴った。


「アホか。意味ちゃうやんけ」


俺はハアーッとため息をついた。


「ご、ごめんなさい…」


謝る千代子に背を向け、三歩ほど前を歩いた。
でも、ま…コイツが悪いんちゃう。


それより、今考えるのは、コイツを親父紹介する事と、コイツの両親に会いに行く事。
俺は千代子の方を向き、口を開いた。


「…頑張るわ」


そう言うと、千代子はニコッと笑った。


「慎一さんっ!!」


「どわっ!イキナリ抱きつくな!」


頭を掴み、体から離す。
千代子は少し唇を尖らせて抵抗した。


千代子のクセに生意気な。


「ほら、さっさと行くで!」


そう言ってスタスタと先を行く。


「はいっ!今日は、私が頑張ります!」


千代子はその場で力み、叫ぶ。
俺は振り返り、千代子の方を向いた。


「おお。頼むで」


そう言って、笑った。
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