ビターチョコレート
「…そうか」
と、親父は言った。
わ…分かってくれたんかな?
ガラにもなく、ドキドキしていると、親父はこう言った。
「ただ…向こうの娘さんが、お前の事をえらい気に入ってな。…断れる雰囲気じゃなさそうなんだ」
………は!?
向こうの娘さんって…S女!?
「あのS女…何考えてんねん」
俺はそう呟く。
隣で千代子が、ハラハラしたような顔で俺を見ていた。
「どうゆう事やねん!」
とある喫茶店。
俺と千代子は、S女に連絡して、
この喫茶店で待ち合わせをしていた。
S女が来た瞬間、俺は言った。
「知らないわよ。お父様が勝手に言ってる事よ。」
「いや、だから断れって…お前、裕貴と付き合ってんねやろ?」
「は?私があんなハゲと付き合ってるわけないじゃん」
「でも、裕貴は…」
俺はそう言いかけて止めた。
なんとなく、分かっていた。
裕貴の脳内妄想だという事を。
「アイツはほんま…」
二人に聞こえないようなか細い声で呟き、ため息をついた。
「…分かった、お前に言っても無駄って事やな」
俺は席を立ち、千代子もS女に礼をして、席を立った。