ビターチョコレート
「別に…まだ付き合ってないとは聞いてたけど。」


「そっか…分かった、ありがと。お見合いの件は、お父様に言っておくから。」


「おお、悪いな。っていうか、それをさっき言えよ。」


「言う前にアンタが帰って行ったんじゃない。」


あ…それもそうか。


それよりも…瞳と長野がまだ付き合っていないという事実にも驚いたのに、長野が瞳を避けてるなんて…知らなかった。


そんな事を考えてると、どこからか、視線を感じる。
その方に顔を向けると、千代子が何やら一人でテンパッていた。


「…何してんねん」


千代子は何やらオロオロしたあと、静かにシュン、とした。


「だって…」


そんな千代子に渇を入れる為、俺はデコピンをした。


「いた…」


不安そうな顔をして、オデコを押さえる千代子。


「言ったやろ?俺がなんとかするって。そんな顔すんな」


千代子はキョトンとして、何も言わなかった。


「なんや?俺が浮気してるとでも思ったか?」


「お、思ってませんよっ!!」


千代子は大きく首を振った。俺は笑って、歩き出した。


「慎一さん…」


千代子は俺の腕の裾を掴み、何かを言おうとした。


「ん?」


俺から目を逸らせて、俯く。


「なんでも…ないです」


なんでもないこと、あらへんがな。


俺はそう思ったが、千代子がそう言うのなら、無理に聞かない事にした。


…そういうと聞こえはいいけど、俺はただ、聞きたくなかっただけかも知れへんな。
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