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――つきおとされた…。突き落とされた?
言葉の意味を理解する。
そして震えている琴菜を見て慌てた。
「っ!?、大丈夫。もう大丈夫だから」
おそるおそる琴菜を抱き寄せる。
体は冷えきっていて、不安になった。
「ぁっ…や、こ、こわか…っふ…」
ギュッと強く抱き締めると、安心したのか涙がこぼれ頬を濡らしていく。必至に嗚咽を堪えようとしているが止まらないらしい。
そしてそれにも驚いた。
琴菜は滅多に泣かない。泣くとしても声をあげずに、本当に涙だけを流す。
泣き顔を見ていられなくて、自分の胸に琴菜の顔を押し当てた。
すると遠慮がちに制服の肩辺りを握られる。
「……怪我は?」
「っな…い」
「そっか、良かった…」
腕の力をもう少し強め、壁に背を預けた。10分ほどそうしていただろうか、琴菜は腕の中で寝息をたて始めた。
頬に残っていた涙をすくいとる。
と、階段を上ってくる足音がして顔をあげた。