王国ファンタジア【流浪の民】
 かけられた声に顔を上げると、セシエルが見せたことの無い表情をしていた。

「あいつね、俺に先に集落に帰れって言ったんだ」

「え?」

 カップを持つ手が、微かに不安を表していた。

「ベリルのあと、つけてくれないかな」
「!」

 セシエルは何かの不安にかられている。

 ドルメックは一瞬、驚くと黙って頷いた。ミントティを一気に流し込み、ベリルのあとを追う。

 あまり近づくと気付かれてしまう。見失うギリギリの距離で、ドルメックはベリルの背中を見つめる。

 多少、見失っても平気だ。彼の存在感が人々の目を引きつけているのだから、聞けばいい。

「?」

 どこに向かってるんだ? 皆目(かいもく)、見当が付かない。

 見つからないように慎重に追う。

「!?」
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