王国ファンタジア【流浪の民】
「よく戻ってきてくれた」

 ひょろ長い男が震えた声で、ベリルに近寄る。

「……」

 ベリルはそれを無表情に見つめた。

「しかし、民の雫と交換とは……」
「私がいれば十分だろう」

 国王の言葉にも感情を表さずに応えたベリルだが、柱の向こうでドルメックが最も驚いていた。

「……」

 こんな事って……心臓が大きな音を立てて、血液が逆流しそうなほどだ。

 ベリルは自分と引き替えにしたのか!? 何故だ。

 荒い息を必死で整え恐る恐るのぞき込む。

「!」

 ベリルの近くにいる奴、王宮専属の錬金術師だ。

 高そうなローブに、ファンタジアの紋章が刺繍されている。

 それに、ドルメックはグレードの言葉を思い出した。
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