王国ファンタジア【流浪の民】
 しかし何故、彼はそこまで己を鍛えているのだろう。

 それはまるで、足りない何かを必死に補おうとしているようにも見える。

 彼に、何が足りないというのだろうか。

 考えられるものといえば……

「恋愛感情。くらいか?」

 だが、それと鍛える事とは違う気がする。

 他人には計り知れない何か。が、彼にはあるのかもしれない。

 物知りで強く、優しい頼れる親友。

「……」

 セシエルはそこまで考え、眉をひそめた。

 1つだけ、許してはいけない事がある。

 あいつは、必ず俺を守ろうとするだろう。妻と子どものために。

 だが、守るべきは俺じゃない。あいつ自身だ。

 あいつの持つ知識と技は、我らの民には宝となるだろう。
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