王国ファンタジア【流浪の民】
「俺は仲間を取り返すために強くなった。それの何がいけない」

「憎しみから生まれた強さは、それだけでしかない。前に進む強さには成り得ない」

「何も知らないくせに……」

ドルメックの右目に炎が宿る。
それに、ベリルはさらりと応えた。

「お前が私の事を知らないようにね」
「!」

「私には拾われる前の記憶もなければ、親がいたという記憶さえ持たない」

 むしろ、それだけの憎しみを持てるほどの記憶はベリルにとっては羨ましい事なのかもしれない。

「拾われた……?」
「初めの記憶はそこから始まる」

 目を伏せる。その瞳には哀しみも何も無かった。

「私には前に進む事のみが許された。それが辛いとも苦しいとも思わない」

 過去に何があろうとも、今いる己は揺らぐことはない。

「……」

 その強い瞳に、ドルメックは息を呑む。

「己の限界を作るな」

 静かな声と共に、ベリルの姿は夜の闇に消えた。
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