王国ファンタジア【氷炎の民】
「雪ぞりはここにおいておきな。雪狼ごと面倒見ておくよ」

 店の前に止められた雪ぞりを目にして主人が言った。
 二列につながれたままの雪狼たちが六頭、おとなしく待機している。
 どの雪狼も長旅をしてきたとは思えないほど、つややかな毛並みで色艶もよい。
 しかし、山にはそりは邪魔になるだけだ。

「すまない」
「なあにそのくらい軽いもんだぜ」
「じゃ、僕、荷物整理します」

 レジィが小走りに雪ぞりの後ろに積んだ荷物に駆け寄っていくが、サレンスは動こうとはしない。ただ見守っているだけだ。

「手伝わなくていいのか」
「ああ、ああいうことは私がするより手早い。適材適所といったところだ」
「そんなものかねえ」

 黒髪の青年の端麗な横顔を眺めながら店の主人は、この青年にまだ少年ぽさが抜けていないころ、しっかり働いていたというかこき使われていたころの様子を思い出す。

 レジィの父親レジアスのほうが10歳ほど年上のようだったが、サレンスの方がレジアスより立場が上のようで、レジアスは彼を様付けで呼び、言葉使いだけは丁寧だったが容赦はなかった。いわく氷原に身分の上下はない。能力があるものが働け、だった。

<氷炎の民>の中でも、この青年だけが持つという物体の温度を自由に操る力というのはたしかに便利なものだった。氷の家を建てたり灯りや暖房、果ては調理にまでに使われるのを目前にした。

 だから、あの当時、単に便利な力にとしか見てなかったが、よく考えてみればとてつもない力だ。あんなふうに使われていたところを先に見たからこそ、彼らの真の力、紅蓮の炎を自在に操る様を見ても無闇に警戒することも畏れることもなかった。
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