王国ファンタジア【氷炎の民】
 あれはそれが狙いだったのか。
<氷炎の民>の中でも特殊な才を持つ彼を俺たちに馴染ませるための。

「喰えねえ、御仁だったなあ」

 思わずぽつりともれた言葉にサレンスが反応する。

「は? 何の話だ?」
「いや、年の離れた仲のいい兄弟って感じだったな、あんたたちは。レジアスはなんだってまた逝っちまったんだい?」
「胸の病だ。あっという間だった」

 返すサレンスの言葉は少ないが、凍青の瞳に落ちた翳りは心痛を想像させるに十分だった。

「そうか、惜しい奴をなくしたなあ」
「そうだな」

 サレンスの蒼い視線の先では、どうやら荷物の選別がすんだらしい子どもが大荷物を抱えてこちらによたよたとやってくる。どうにも足元が危なっかしい。

「あの子、連れて行く気か? ここに置いていってもいいぜ。ちゃんと面倒見てやるからさ」

「そうしてもらえればとも思っていたんだが、ドラゴンがどこに出没するかわからないような状況では私の側においているほうが安全だろう」

「そりゃずいぶんな自信だな。おまけに過保護ときている」

「しかたがないだろう。今となってはレジアスのたった一人の血筋のものだ。私は彼に……」

「わっ!」

 サレンスの言葉をさえぎったのは小さな悲鳴だった。

「サレンス様、助けてください」

 見るとレジィが雪狼のうちの一頭に荷物ごと押し倒されていた。
 子どものマントの端を通りすがりざまに咥えて引っ張ったらしい。
 倒れたところを太い前足で押さえつけている。
 しっかりとかぶっていた帽子がはずれ、白銀の髪がこぼれ出る。

「ありゃ、襲われてるいうより遊ばれているな」

 それが証拠にぺろぺろとなめまくられている。

「ひゃああ、くすぐったい」
「何を遊んでいるんだ、セツキ」

 ため息をひとつついて身軽にサレンスが駆け寄ると、雪狼は薄蒼い瞳をぴたりと彼に向けた。
 太い尾がぱたぱたと何度も振られる。
 サレンスはもうひとつ、今度は盛大にため息をついた。

「レジィ、お前、動物にもてるな」
「うれしくないです」

 セツキに下敷きにされたレジィが抗議の声を上げた。
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