王国ファンタジア【氷炎の民】
「こんにちは、アルーシャ。今日も綺麗だね」
「しらなーい」
「ええ? 待ってっ!」

 通りすがりの娘に気軽に声をかけた青年は、銀の髪と蒼き瞳を持つ氷炎の民の中にあっても、ひときわ目立つ。
 すらりとした長身。
 長く伸ばした髪は輝く銀糸。
 澄み渡った蒼の瞳は氷河の色。
 通った鼻筋。
 すっきりとした口元。
 非の打ち所はない。

 そして、何よりも彼は特別の才を持っていた。
 単に『炎の力』の完全制御だけではない、彼は物体の温度そのものを自在に支配できた。
 灼熱から極寒まで。
 まさしく真の「氷炎の民」であった。
 しかし、それでも彼は女性にもてなかった。
 なぜなら彼の女癖の悪さは「氷炎の民」には知れ渡っていたのだ。

「また振られましたね、サレンス様」
「うるさいな、レジィ」

 彼、サレンスの側につき従うのはまだ10歳ほどにしか見えない少年。
 彼の髪は銀というより、白に近い。瞳の色は蒼というには、柔らかな青。
 サレンスとは別の意味で目立つ存在だ。
 両親を早くに失ない、他に身寄りもない彼は、サレンスに付き従い彼の世話をしている。年の割りに賢い少年でもあった。

「もういい加減身を固めたらどうです?」
「身を固めようにも女の子がみんな逃げて行く。どうしてなんだ。こんなに顔もいいし、力もあるし、家柄だっていいのに」

「貴方のそのいい加減な態度がいけないんですよ。女の子は勘が鋭いですからね。遊ばれるだけってわかってて貴方の相手をするような酔狂な子はここにはいませんよ」
「私はいつでも真剣だ。可愛い女の子なら何人だって公平に愛するぞ」
「だから、それがっ」
「あのー、もしっ」

 主従の不毛な会話をさえぎったのは長老会からの使いの者だった。
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