王国ファンタジア【氷炎の民】
 サレンスは止め具からセツキを離す。
 雪狼はのっそりと動くと下敷きにしていたレジィを開放し、サレンスの側に寄り添う。
 その様子にようやく起き上がったレジィは目を丸くした。

「ひょっとして連れて行くつもりですか」
「お前に着いていきたいらしいしな」

 サレンスの軽口に今度ばかりはレジィも流されない。説教口調で話し出す。

「王都はここよりずっと暖かいんでしょう? 雪狼は分厚い毛皮を着ているから寒さには強いけど、そのぶん暑さには弱い。かわいそうですよ」
「だいじょうぶだ、温度管理は私の得意技だ」
「そうでしょうけど……」
「もういうな、私は大丈夫だから」

 氷炎の民は温度を上げることはほとんどのものができうるが、温度を下げることができるのは現在はサレンスただ一人だ。温度を上げるよりも下げるほうが難しい。それが始終であれば負担がかかり続け、消耗を招くであろうことは容易く予想がつく。
 さらにこの先ドラゴン退治が控えている。

(温存してるほうがいいのに)

 レジィはため息をついた。
<氷炎の民>の力とはいえ無限ではない。

「わかりました。そのときは、僕が責任を持って毛を刈ります」
「おいおい、それはもっと可哀そうだろー」
「ううーっ」

 雪狼が抗議するように唸ったが、少年はにっこりと笑った。

「大丈夫だよ。かっこよく刈ってあげる」
「きゅううん」

 いつもは怖いもの知らずな獣が子狼のようにおびえてサレンスに擦り寄る。
 その頭をなだめるようにかるく叩いて、凍青の瞳をした青年は笑う。

「ま、お手柔らかにな」
< 20 / 44 >

この作品をシェア

pagetop