王国ファンタジア【氷炎の民】
 レジィは青い瞳を何度か瞬いて確かめるように、けれど確信を持って言った。

「<サレンス様>ですね?」
「さすがは巫の血筋を継ぐ<導き手>だな。見分けたか」

 凍青の瞳を細めてゆるやかに微笑む彼は、レジィのよく知る何かと手のかかる青年ではない。<氷炎の民>を古より護る、かれらの守護神<サレンス>であった。

 彼らの背後でセツキがゆっくりと起き上がった。ふるりと体を震わせると、まだ覚束ない足取りでレジィの側に寄り添うように立つ。
 雪銀の獣の体を無事を確かめるように無意識に撫でながら、レジィは問う。

「あれは、死んだんですか?」
「いや、元いたところに戻しただけだ」
「殺さなかったんですか?」

 レジィの責めるような声の響きに青年は笑った。苦い笑いでもあった。

「私は昔、世界の理を歪めた。これ以上、命に干渉はできない」
「世界の理?」

 彼はゆるく首を振った。

「お前に話すことではないな。それより急ごう」
「え?」
「はやく王都に行ったほうがいいのだろう」
「でも、村の人たちは?」

 蒼い視線が宙に向けられる。

「だいじょうぶだ。彼らはとっくに避難している。どうやらかなり目端の利く一族のようだな」
「そうか、よかった」

 ほっとしたレジィの青い瞳からぽろぽろと涙があふれる。

「あれ、あれっ」

 自分でもびっくりしたのか、あわてて涙を乱暴な手つきで払う。
 セツキが慰めるようにレジィの頬を舐めた。
 白銀の頭を<サレンス>がそっと撫でる。

「地底湖の我が妹の力を借りよう」
< 25 / 44 >

この作品をシェア

pagetop