王国ファンタジア【氷炎の民】
狭い隧道を何とか通り抜けたそのとき、レジィは息を飲んだ。
視界が開けたそこには広大な空間が拡がっていた。
大きな皿を何千枚も整然と並べたような美しい光景が拡がるその先には、さざ波ひとつないまさしく鏡のような湖。
足が濡れるのもかまわずに、<サレンス>が岸辺まで進む。レジィと雪狼が後に続く。青い炎が辺りを照らし出すが、生き物の気配はなかった。
地中深く耳が痛くなるほど静謐で清浄な場所。
息をすることすら憚れるような。
しかし、ここから王都にどう向かうというのか。
「サレンス様?」
不安げに、それでも知らず声を落として問いかけるレジィに背を向けたまま片手だけで制して、彼は湖に話しかけた。
「湖の姫よ。気づいておるのだろう」
彼の言葉に応じたのか、地底湖の中心にゆるやかに水の輪が生じる。
やがて水は盛り上がり、それは人の姿を象った。
長い髪を華奢な裸身にまとった少女。
水でできた透明な体は、硝子のようにきららかだ。
少女の姿をしたそれは艶然と微笑んだ。
「お久しゅう、兄君さま。人の身を借りなければ、うつし世に現れえぬとは難儀なことよのう」
澄んだ声が湖面を響き渡る。
視界が開けたそこには広大な空間が拡がっていた。
大きな皿を何千枚も整然と並べたような美しい光景が拡がるその先には、さざ波ひとつないまさしく鏡のような湖。
足が濡れるのもかまわずに、<サレンス>が岸辺まで進む。レジィと雪狼が後に続く。青い炎が辺りを照らし出すが、生き物の気配はなかった。
地中深く耳が痛くなるほど静謐で清浄な場所。
息をすることすら憚れるような。
しかし、ここから王都にどう向かうというのか。
「サレンス様?」
不安げに、それでも知らず声を落として問いかけるレジィに背を向けたまま片手だけで制して、彼は湖に話しかけた。
「湖の姫よ。気づいておるのだろう」
彼の言葉に応じたのか、地底湖の中心にゆるやかに水の輪が生じる。
やがて水は盛り上がり、それは人の姿を象った。
長い髪を華奢な裸身にまとった少女。
水でできた透明な体は、硝子のようにきららかだ。
少女の姿をしたそれは艶然と微笑んだ。
「お久しゅう、兄君さま。人の身を借りなければ、うつし世に現れえぬとは難儀なことよのう」
澄んだ声が湖面を響き渡る。