王国ファンタジア【氷炎の民】
「王国の思惑がどこにあるのかはわからない。けれど、無辜の民が危険にさらされていることが確かである以上、私は手を抜くようなまねはできない」

 自分はほんとうは何者なのかはわからない。
 時々、飛ぶ記憶。
 炎を操るだけではなく、物の温度を自在に支配する力。
<氷炎の民>の中でも彼は並外れている。
 異質といってもいい。

 両親には特に冷たくされたわけではなかったが、物心ついたころから、彼らはいつもサレンスには一歩引いた対応しかしなかった。それは周りの他の者たちも同様だ。ただ、今は亡きレジアスだけが彼を対等に扱ってくれた。

 暖炉から枯れ木を一本引き抜く。燻っているそれは彼の手の中であっと言うまに凍りつく。蒼き双眸に厳しい光が浮かぶ。

「私の力は多分そのためのものだ」

 凍りついたはずの枯れ木が彼の手の中で燃え上がる。
 青い炎が彼の顔を照らす。
 それはやがて大きく燃え上がる。彼の手を燃やし尽くそうとするかのように。
 しかし、炎は不意に消え、あとには何ものこらない。燃えかすすらも。
 そして、彼の手はまったくの無傷だった。
 手品のようなその一幕をただ静かに見守っていた雪狼に、サレンスは話しかける。

「お前には迷惑を掛けるが、しばらくはその子を頼むぞ。つれまわすのは危険かとも思ったが、ドラゴンがどこにあらわれるかわからない状況では私の側にいさせるのがもっとも安全だ」

 返事をするかのように雪狼の耳がびくりと震えた。

(王国ファンタジア【氷炎の民】王都編:完)

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