王国ファンタジア【氷炎の民】
 翌朝、サレンスが目覚めれば向かいに眠っていたはずのレジィの姿はなかった。
 寝具も少年の分はすでに綺麗に片付けられている。
 レジィが起き出す気配にまったく気づかなかった。
 思っていたより疲れていたのだろう。
 まだ少し体がだるく軽く頭痛もするが、昨夜ほどでもない。

(あれは、さすがにちょっとまずかったな)

 村を包む炎を消したがいいが、反動が大きすぎた。
 ドラゴンと戦うには、もっと効率のよい方法を見つけないと身が持たない。
 おまけに記憶は飛ぶし、いきなり王都だし、レジィには泣かれるしで碌なことはない。
 部屋を出れば、そこは吹き抜けのある明るい玄関ホールであるが、そこにも人の姿はない。

「レジィ、どこだ」
「おん」

 彼の声にどこからかすっと飛んできたのは、銀色の雪狼のほうだった。
 薄青の瞳でじっとサレンスを見上げ、ぱたぱたと何かを期待するかのように尾が振られる。セツキの子狼の時分を思わせる所作に、こみ上げる笑いを抑えて毅然と命じる。

「少し待て」 

 サレンスの言葉にセツキはくうんと鼻を鳴らす。すねたようにその場に座り込み、前足に顎を乗せ、上目遣いでサレンスを見上げる。

(しょうがないやつだな)

 しかし、それでも甘やかすことはできない。雪狼は本来決して従順な生き物ではないが、群れの統率者には絶対に従う。互いの立ち位置を曖昧にするわけにはいかない。
 二階から声が響いた。

「こっちです」
「そんなところで何をしているんだ?」

 二階に向かって叫び返した。
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