王国ファンタジア【氷炎の民】
「片づけをしてるんです。一晩、勝手にお世話になったお礼です」
「お前も苦労性だな」
「ほっといてください。立つ鳥跡を濁さず、と言うかもっと綺麗に、です」
「どんな標語だ、それは。で、どのくらいかかりそうだ?」
「うーん、昼前には終わるかな。あっ、サレンス様は手伝わなくていいですから、余計散らかしてしまうだけだもの。何もしないでください」

 何もするなとはまた酷い言われようだが、サレンスは至極あっさりと答える。

「わかった。それでは、外の様子見がてらに散歩に行ってくる」
「散歩? ちょっと待ってください!」

 二階でばたばたと音がする。
 おまけにドンとか。

(転んだな、あれは)

 知らずサレンスの口元に笑みが浮かぶ。
 上からひょっこりと首を出したレジィは、頭に白い布を巻き、どこからか見つけ出したのか、はたきを手に持っている。その様子はどう見てもどこかのおかみさんである。本格的な大掃除体勢に入っているのだろう。
 サレンスを一目見るなり少年が咎めるように叫ぶ。

「あっ、やっぱり、昨日のままじゃないですか。着替え用意しますから、顔洗っててください」
「別に私は散歩くらいこのままでかまわないぞ」
「僕がかまいます。大体、ここをどこだと思っているんですか。王都ですよ。ただでさえ僕たち田舎ものなのに、主人をそんな小汚い格好で外に出すなんて、従者失格と思われます」

 小汚いとはまた酷いいわれようだが、確かに昨日の流れの傭兵とかいう設定の衣装のままだし、乾いた泥は落ちきっていないし、そのまま眠ってしまったものだから皺も酷い。髪もまだ梳かしていないので、もつれかけてぼさぼさだった。
< 37 / 44 >

この作品をシェア

pagetop