王国ファンタジア【氷炎の民】
 けっきょく着替えさせられたうえに、髪も梳られて、きちんとひとつに結わえられた挙句、釘を刺される。

「迷子にならないでくださいね」

 私は子供か、レジィに聞こえない程度につぶやく。
 自分の世話を焼くレジィはごく楽しそうだ。あの頃よりずいぶん変わった。手際がよくなったのはもちろんだが、明るくなった。

(ずいぶん泣いていたからなあ)

 大好きな父親を亡くして、代わりだと言ってサレンスの従者として押しかけたレジィは、無理はないのだがよく泣いていた。本人は隠しているつもりだったようだが、いつも目を真っ赤に腫らしていればばればれである。
 最初は酷いもので、髪を梳かされれば禿げるかと思ったものだ。
 サレンスの身の回りの世話は全部自分がしなければならないと思い込んでいたようで、何でも自分でしようとした。しかし、さすがに八歳にという幼さでは上手くいかないことも多く、サレンスはひそかにいらいらしていたものだ。しばらくして、自分にできないことは人に頼めばいいことを学習してくれたときは心底ほっとした。その代わり逆にサレンスが使われることが多くなったわけだが。

「だいじょうぶだ、セツキを連れて行く」

 自分でもつくづく甘いと思いながらも、安心させるために一言付け加える。

「あっ、だったらだいじょうぶですね」

 私は雪狼以下かと、ふたたび小さくつぶやきながら、サレンスは雪狼に声を掛けた。

「おいで、街の様子を見てみよう」
「うおん」

 セツキは嬉しげに一声吠えると、先刻まですねていたのが嘘のような堂々とした足取りでサレンスに付き従う。外に行きたくてたまらなかったのだ。

「セツキ、サレンス様が変な女の人に付いていかないように見張っていてね」

 レジィに特大の釘を刺されたサレンスであった。
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