王国ファンタジア【氷炎の民】
 あれはレジアスが不帰の人となってどれくらい立ったころだろうか、ようやくサレンス自身も彼の不在に慣れかけようかとした頃のことだった。
 
 常になく困った顔をした執事に呼ばれて玄関に出ると、そこは大荷物とともに八歳ほどの少年が、どこか所在なさげにぽつねんと立っていた。

 思いつめたような青い両目は今にも泣きそうに潤んでいて、泣き腫らしたのか赤く腫れてもいる。
 ふわふわの白銀の髪。彼の守り役だったレジアスのたった一人の息子だった。

「レジィ、どうした? そんな大荷物抱えて」

 レジィと呼ばれた少年はサレンスを認めると、酷く安心したかのような顔をした。

「サレンス様。僕、父さん、じゃなくて父の代わりをするためにきました」
「代わり?」
「だから、もう安心です」

 少年の言葉はサレンスの理解の範疇を超えていた。

「は?」

 思わず問い返す。

「僕が来たからにはもうご不自由はさせません」
「不自由?」

「父から聞いています。サレンス様はご自分では何もできない人だから、ちゃんと面倒を見ないと駄目だって。父はいなくなってしまったから、僕が代わりをします。どーんと任せておいて下さい」

 サレンスに口を挟む隙を与えず一気に言い切ると、レジィは自分の胸を叩いた。それは彼の父レジアスを思い出させる仕草だったが、まだ稚い少年には無理があった、小さく咳き込む。

(レジアス、あんた、自分の息子に何を吹き込んでいた)

 サレンスは天を仰ぎたくなったが、レジィの期待に満ちた視線の奥のひそやかな恐れの色に気づく。断られたらどうしようとでも考えているのだろう。しかし、何といってもあのレジアスの遺児だ。無碍にはできない。

「まあいい、とにかく入れ」

 その日から、レジィはサレンスの従者となった。

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 レジィ、サレンスの従者になるの巻。
 ファンメールで配信済み

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