愛の楔
思い出すのは、俺が怖くないと笑ったあの表情。それと歌。
「……炯」
「はい」
「頼みがある」
「何でしょう?」
炯は背筋を伸ばして俺の言葉を待つ。相変わらずの熱心ぶりに俺は心の中で笑う。
今から頼む事は、あくまで私的なもの。俺の我が儘だ。
「………探してほしい女がいる。」
だが、俺は自分の地位を利用してでも、もう一度美空に逢いたい……そう思ってしまった。
逢ってまた歌を聞きたい。そして……笑いかけてほしいと。