愛の楔
「………分かりました」
やれやれと諦めたような炯の声。
肩越しに振り返ると、炯は真っ直ぐ俺を見返す。
「若の好きなようになさってください」
「炯………」
「若が、何かに興味を持たれたのは初めてですからね」
私は、若についていきますよ。
そう笑う疾風に、本当にできた男だ、と思いながら俺は前に向きなおり、歩くスピードを速めた。
いつの間にか家の前で待っていた車に乗ると、車はすぐに動き出した。
俺は、座椅子の背に体重を預けながら、そっと肩に触れる。
まだ、最悪の事態になっていないことを、祈った。
ゆっくりと俺に負担がかからないように車は止まる。