愛の楔



俺は、泣いていたのか………?


「お医者さん呼んでこようか?」

「いや……いい」


心配そうに眉を下げる美空に、俺は乱暴に目元を拭った。


「それより、病室から出ていいのか」

「うん?怪我はこの手だけだからね」


病院内なら自由に歩いていいって。


「……そうか」

「あたし、今本当は17みたいだね」


俺の横を通りすぎてカシャンとフェンスに寄りかかる。


「聞いたらびっくりしたよ」

「………怖くないのか」


恐らく医者に聞いたのだろう。
しかし、記憶喪失だと言われたらパニックになったりするものではないのだろうか。


「怖い?……うーん……よくわかんない」


不思議な感じがするけどね、と美空は、苦笑する。


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