愛の楔
「あの、澪って人に聞いた。あたし貴方のお世話になっていたみたいだね」
「………」
「それなのに、誰とか言って……忘れちゃってごめんなさい」
申し訳なさそうに頭を下げる美空に、俺は気にしていない、と美空に頭を上げさせた。
「でも、」
「今、自分が覚えている事はどんなことだ?」
「えっと………昨日、あっ昨日はおかしいのか……とりあえず、卒業式だった」
「卒業式………」
「うん、いつも忙しいパパとママが見に来てくれたの!!」
嬉しそうに満面の笑みを浮かべる。
今の美空は、まだ両親が生きている時の記憶までを持っているようだ。
両親が、死んでいるということをまだ、知らない。
言った方がいいのだろうか。
無駄に刺激を与えたらいけなくはないか。
「そうか………」
「うん!」
幼い子供のような笑顔に胸が痛む。