愛の楔
「美空?」
「えっと………すっごく失礼だと思ってるんだけど……」
「?」
「…………」
口を開けたり閉じたりを繰り返す美空。
そんなに言いにくい、失礼な事ってあるか……?
「いいから、言え」
「…………ぇ」
「?」
「………名前を、」
教えてください、とギュッと目を瞑って身を縮込ませる。
「………名前、か……」
ポツリと呟く。
名前、それを改めて聞かれて少しだけ胸が痛んだ。
しかし、美空が俺を忘れていることは紛れもない事実で。
「………龍、だ」
「!」
ハッと美空が弾かれたように顔をあげた。
「来栖龍だ」
今、俺は、ちゃんと笑みを向けているだろうか。
「龍、さん………」
ホッとしたような顔で美空は嬉しそうに俺の名前を繰り返した。