愛の楔
「………え?」
「何か必要なら澪にでも言えば用意するから」
目を見開く美空に俺は、これ以上ここにはいられないと思って踵を返す。
胸が痛い。しかし、これでいいんだ。
そう自分に言い聞かせながら早々に部屋からでようと足を踏み出した俺は、しかし背中の服を掴まれてたたらを踏む。
「………ど、して?」
「………」
涙声の美空に、今すぐ振り返って抱き締めたい。
それをグッと抑えて俺は、無言を貫いた。
「記憶無くなる前に、何かしたの……?あたしが、悪いことしたなら、謝るよ?……だから、「違う」
俺は、美空の言葉を遮って半分だけ体を戻した。下に目線を下げると今にも崩壊してしまいそうなくらいに涙を溜めた美空。
「………お前は、何も悪くない」
悪いのは、俺なんだ。