愛の楔
目を瞑っていた俺は、向かい側にいる澪がどんな表情で見ているのか、分からなかった。
それから俺は、ただただ仕事に集中した。そうすることで美空の事を考えないですんだからだ。時々澪が見に行っているから、澪の報告だけで十分だった。
「龍」
「なんだ、親父」
「ちょっと来い」
自分の書斎で仕事をしていた俺に親父が何時もの顔をしながら顔をだす。
「?」
親父が普段俺を呼ぶことはない。同じ家に住んでいて直接顔をあわせて会話をする機会は食事の時だけだった。
俺は、不信に思いながら一旦仕事を中断させ、立ち上がった。そして親父の後を追うように部屋を出る。
「何のようだ」
親父の部屋を訪れると飄々としながら座布団に座っている親父がいた。
「まぁ座れ」
今時珍しい煙管で親父は自分の前に用意されてある座布団を指す。