愛の楔
もう医者は来ていて、準備万端だった。布団に寝かせて、俺は美空から離れる。
「山じぃ、頼む」
「派手にやられたみたいだの」
白髪に白衣を着た医者。もうそろそろ隠居した方がいいと思われる年だが、腕はそこらの大学病院にいる医者よりも確かなものだ。
美空が手当てされていくのを俺はじっと見ていた。見るに耐えない酷い傷もあってどれだけ我慢したのか、それと同時に東組の奴らに殺意を覚えた。
「………しばらくは目を覚まさんじゃろ」
ふう、と一仕事を終えた山じぃが医療器具を鞄に直しながら言う。
「大丈夫なのか」
「とりあえずの。多分明日辺りから熱が出るじゃろうから、また呼べ」
「………分かった」
ふうっと安堵の息をはいて、俺は美空の傍らに座り直した。