愛の楔
すると山じぃは、怖いのぉ、と肩を竦めてから帰っていった。
部屋には俺と、眠る美空。
「………大事、か…」
美空の顔を見ながらつぶやく。
炯といい、山じぃといい、まるで俺が別人のように見てきやがる。
俺は、別人とかじゃなく、来栖組の若頭、龍だ。感情を殺し、裏の闇世界に生き残っていくためにのし上がる。そのためには使えるものは使うし、邪魔なものは消す……そうやって生きてきた。
人は俺を見れば恐れを抱くし、憎しみも抱いているだろう。
下の奴らも、俺を畏怖している。
恐らく、俺を怖がらないのは、組長である親父と、疾風、昔からの知り合いである学………そして、
『怖くなんかないよ』
「美空………お前だけだ」
俺を怖がらなかった奴。
女では初めてだった。今までも近づいてくる女はいたが、やはり根本的な所で恐怖を抱いていた。
だから、嬉しかった。笑いかけてくれたことに。