愛の楔
「理由は?」
「…………」
「炯に聞けば、親は借金で逃亡、その借金はお前が払ったって言う」
「……あぁ」
「お前がそこまでした理由はなんだ?」
親父、の顔ではなく来栖組組長の顔で聞かれる。
理由が無ければ許さない。
俺は、親父の鋭い眼圧を浴びながら、今部屋で寝ている美空を思う。
「………もう一度」
「?」
「もう一度、笑ってほしかった」
屈託のない、自然な笑顔を自分に向けてほしかった。ただそれだけ。
そう言うと、はあぁぁ、と大仰な溜め息が聞こえてきた。