愛の楔
「………」
俺は、男達のアーチの間を歩く。
今でこそ慣れてしまったのでどうということではないが、昔はこれに驚いたのを覚えている。
幼い何もできない子供に厳つい男達が一斉に頭を下げるのだから驚かない方がおかしいだろう。
俺が通ると男達は次々と頭を上げる。それからまた自分の持ち場へと戻っていくのだ。
忙しいのだから俺を出迎える暇があるなら働けと前に言ったことがあったが、上司に従順な奴らが珍しく反抗して、伝統なのでと頑なに頷くことはなかった。
「………賢がいないな」
美空に付けた男の姿が見えない。いつもにこやかに笑いながら出迎えるあの男が。
「賢さんは、お嬢に付きっきりです」
俺の呟きを拾った奴が答える。
「美空はまだ本調子に戻らないか」
俺は足を止めて答えた男に問い掛ける。