愛の楔
人を殺したことがあるか否か………
答えは、ある、だ。
俺の手は血で染まっている。
「………自分を護るためには犠牲にしなきゃいけないことがある」
命は尊いものだが、この、裏の世界では一瞬の油断が命取り。
まさに弱肉強食の世界だとも言える。
「人を殺すのに抵抗はないの」
「そんなもの慣れたさ………だがな、好きで人を殺すわけではない。」
「?」
「俺は、銃を向けるそいつを撃つんだ」
自分を護るために。
「………」
「血塗れたこの世界を理解しなくてもいい………だけどな、美空。ヤクザにも心はある」
俺を、否定しないでくれ。
美空は、下を向いたまま何も言わない。やがて顔をあげると先程と同じような笑顔を向けてくれた。