薔薇とアリスと2人の王子

 また兄弟のにらみ合いが始まったんで、アリスは放置を決めこんで女性に向き直ったよ。

「海の中って、どういう事? 会えないのかしら」
「海の魔女なんだ。人魚じゃないと会えない」
「人魚ですって?」

 アリスは“人魚”を思い浮かべた。
 人間の上半身に魚の尾びれがついている伝説上の生物。
 幼い頃、母親に読んでもらった絵本に描かれていた気がする。

「あなたは魔女に会った事ないのね、色々聞きたかったのに残念だわ」
「会ったことある」
「――えっ!?」
「私、人魚だったんだ」

 女性はアリス達の方を見ないままそう言うと、水色のワンピースを翻してさざ波が打ち寄せる浜辺に座った。
 伏せ気味の瞳が水平線を見つめている。
 今までの強気な顔つきとは正反対に、その横顔は悲しげだった。
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