薔薇とアリスと2人の王子
 彼女は大切なものなんて必要だと思わない。そんなもの無くたって生活には困らないし、探すほどのものだとは思わないんだ。

 あいかわらず口を閉ざしたままのアリスに、男はいくらか柔らかい口調で言う。

「お前は幸せになるべきだ。大切なものが無い者は幸せになれない。――幸せになりたいのなら、いい返事を用意しておけ」

 そのあとに男は“俺は女が苦手だけど”と付け足すと、ドアを開け放したまま町に消えた。
 赤い髪が見えなくなるまで、アリスはぼうっと突っ立っていてね。
 いつの間にか空には星が瞬いていた。


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 次の日、アリスは町を歩いていた。時間は昼すぎだ。
 職を求めて彷徨う町民、果物を売り歩く少年、鍬を手にした農夫、いろんな人々が道を往来している。

「じゃあなアリス。また頼むぜ」
「ええ」

 今、アリスはエドワードの相手をし終えてきたのさ。午前中からそんなことをしていて、もうクタクタだった。
 昨日家を出た後の兄弟が気になったけど、余計疲れるだけだったんであまり考えないようにしていたよ。

――突然アリスはぴたりと止まった。
 次の客を捕まえに路地裏へ歩みよろうとした時、背後から声がかけられたんでね。
 しかもその声がアリスの癇に障るものだったものだから、つい身体が固まってしまったんだ。

「へぇ……君、アリスっていうんだ!」
「子供一人でどう生活してるかと思えば……コレか」


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