薔薇とアリスと2人の王子
act6 美女と野獣
6.
もちろん、問題になってきたのは今夜の宿さ。
「手当たり次第、民家をあたりましょう。時間が遅いから泊めてくれる家があるか分からないけど……」
と、アリス。
夜も更けていて、明かりが灯っている家は少なくてさ。
海が近いものだからさざ波の音が止まることなく静かな街に響いている。
そこで気が付いたのは、マエストーソの国の家はみんな同じ形だってこと。
ぜんぶ同じ位置に設置されている扉や窓。これじゃあどれが自分の家だか分からないんじゃないか、なんて3人は思った。
「王子、あなたが家の人達を訪ねてよ。貴族って分かれば泊めてくれるわ」
「俺がそんな面倒なことを?」
「兄さんは駄目です。余計な一言をいって追い返されるのがオチですから」
そのとき、目の前の民家から小太りの婦人が出てきたのに気がついたのはアリスだったよ。
婦人はせかせかと庭の外灯を消しはじめたみたい。
「こんばんは、この辺りで旅人を泊めてくれる家とかあるかしら?」
ニッコリと子供っぽく笑ったアリスだった。