薔薇とアリスと2人の王子

 大げさに眉をひそめながら振り向くと、アリスの嫌な予感は的中だ。
 道に並んで立っていたのはまさしく昨日のあの兄弟でさ。

 赤毛の長髪、耽美系の青年。黒髪長髪のシニカルな笑みを浮かべる少年。
 2人とも整った顔立ちの上に、一目で貴族だと分かる装飾だらけのコートでさ。
 寂れたトランクイロの町では煩わしいほど目立っていたよ。

 アリスは売春行為がバレたことなど気に留めず、2人を軽く睨んでやった。

「またあんた達なの?まだ私になにか?」
「昨日の返事を聞きにね」

 アリスは思い出したかのように“あっ”と声を漏らした。忘れていたのさね。

「おあいにく様!私は大切なものなんて無くても十分、生きていけるわ」

 アリスはふい、と路地裏に背を向け兄弟の横を通りすぎようとした。
 そこで腕を赤毛の兄に掴まれてね。
 汚らわしいものにでも触られたかのように、アリスはその手を振りほどいた。

「なによ!」
「気が強いガキだな。いいか……俺達だってお前みたいなよくわめく娘を連れて行きたくはない、な?」

 兄はそう弟に同意を求めたんだけど、弟はあいにく本能に忠実でね。

「僕はアリスを連れて行きたいですよ? だって兄さん、女の子がいた方が楽しいじゃないですか」

 そう言って清清しいほど満面の笑みを浮かべた弟。彼は兄と真逆に女性が大好きだったんだ。



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