薔薇とアリスと2人の王子
「本当に大切なものは必要ないのかい? 両親の仇を討ちたくはない?」
「……仇を討ったって、父さんと母さんは帰ってこないわ」
そりゃそうだけど、と苦笑する弟の横から兄がズイッと身を乗り出した。
相変わらず偉そうで勝ち誇ったように微笑む口元にアリスは眉をひそめる。
「なら“大切なもの”を取り返しに行けばいい。この町で一生売春をし続ける生活でも確かに困らないだろうが、それは幸せとは言えないんじゃないか」
青い瞳をさまよわせるアリスに、弟が真剣な顔でこう言った。(アリスが彼の真面目な顔を見たのは初めてだ)
「僕ら二人は現在の王である父さんに“大切なもの”がないと言われたんだ。それが無ければ王にはなれないって」
「こいつは次男だから関係ないがな。俺には大問題だ。俺は大切なものを見つけない限り王にはなれないと言われた。だからこの星に“それ”を捜しに来たんだ」
またひとつ確かなのは、昔のアリスには“大切なもの”があったって事。
そして兄弟は、未だにそれが見つからないわけだ。