薔薇とアリスと2人の王子

 ボタボタ、と埃を被ったカーペットに血が落ちた。
 クララの持つナイフは、狙った心臓を外し、腕を貫いていた。

――誰もがたまげたよ!
 刃に貫かれて血を流す腕はイヴァンのものだったんだから。
 彼は自らの腕で野獣を庇っていたんだ。

「兄さん!」

 カールの声に、気が遠くなっていたクララ、野獣、そしてアリスは我に返ったよ。
 クララは震えながらナイフから手を離した。それはイヴァンの腕に突き刺さったままだよ。

「……大切な話がある。女、たまには人の話を聞け」

 イヴァンは痛みに顔を引き攣らせながらナイフを抜くと、それを無造作にカーペットに落とす。
 クララは黙っていた。唇がわななき震えている。

「野獣に殺されたお前の婚約者の名は、ベルホルトというのか」
「……そ、そうよ……」

 ようやく出したクララの声は絞り出したようにか細いものだった。
 イヴァンの腕から溢れる赤い血から目を背けられないでいる。

「先に言おう。この野獣は、元は人間の王子だった。怪しくてキモくてうっとうしい魔女の呪いで、この姿になっている」
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