薔薇とアリスと2人の王子
アリス達はイヴァンの言いたいことが分からなかったよ。
イヴァンは続ける。
「この屋敷に来た時、俺は野獣が人間だった頃の肖像画を見たんだ」
「それが……何……?」
クララの声は今にも消えそうだった。
「その肖像画に書いてあった。“ベルホルト・アドルフ第1王子”とな」
「えっ!?」
「……分からないのか」
クララだけでなく、アリスとカールも驚きに言葉を失ってしまってさ。
ただイヴァンの金色の瞳だけが月明かりのように鋭い輝きを放っていた。
「嘘よ。ベルホルトは侘しい身分だったはず! 王子だなんて……!」
するとそこに野獣の声だ。ひどく情けない声だよ。
「……いくらお前が貴族の娘とはいえ、いきなり王子としてお前に接すると、敬遠されると思ったんだ」
その言葉にクララはゆっくりと野獣に歩み寄る。
その顔を確かめるように凝視したけど、自分の愛する婚約者の面影はなく、恐ろしい獣の顔があるだけだった。
「この醜い野獣が、ベルホルトだっていうの?」
「隠していてすまない……。クララが屋敷に来た時、衝撃的すぎて言えなかったんだ」
もはやクララはその言葉を否定することが出来なかった。