薔薇とアリスと2人の王子
 老婆が手を振って3人を見送る。アリスは徐々に離れていく塔をチラチラと振り返りながら、森を歩いた。

「まだ納得いかない」

 出し抜けにアリスが言った。

「クリストはどうする気かしら。浮気なんてして! もう一発ひっぱたいてきたかったわ」

「まぁまぁ、アリス。お婆さんも言っていたじゃないか。大丈夫だって」

 あら、とアリスが毒々しげな声を出す。

「どこが大丈夫なのか説明してほしいわね。心配でありゃしない」

「大丈夫に決まってるさ。クリストは酒場の女の子の事、本当に好きじゃないと思うよ」

 これにはアリスも疑問を覚えて、眉を寄せた。
 黙々と前を歩いていたイヴァンも弟の方に振り返ったよ。

「宿屋に泊まった時の夜――僕、夜中に起きちゃって外へ散歩に出たんだ。そのとき、宿屋の向かいにある酒場の中を覗いたんだ」


 カールは一息ついて続けた。

「酒場にいたのはクリストと女の子でさ。会話を聞くと2人は付き合っていたようだけど――その女の子は酷い子だったよ。」

「酷い子って?」

 と興味津々なアリス。

「暴言吐くは物投げるわで! 喧嘩してるわけでもないのにさ。ヒステリックな女の子だったんだ」

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