薔薇とアリスと2人の王子

 ふう、とカールがため息を落とす。

「ま、クリストが気違いな女の子に捕まっちゃったって話さ」

「そうだったの……本当、運悪いしダメな男ね。クリストって」

「だから大丈夫。すぐにその酒場の女の子から逃げ帰って来るさ」

 一応納得したアリスの前では、やはり女は苦手だと心底思うイヴァンがいたのは秘密だ。

 森を抜けると、暖かい昼下がりの日が3人に降り注ぐ。気持ちのいい日になりそうだ。

「結局――本当に根暗だったのはクリストだったってオチかぁ」

「何よカール、不満なの。いいじゃない。あの2人は“大切なもの”を見つけられたんだから」


 これまでに色んな人々の“大切なもの”の形を見てきたアリスだったけど――。
 自分の大切なものは、まだ分からなかった。

「それにしてもアリスがクリストを殴ったのには驚いたな……」

 と、イヴァン。

「せいせいしたわ。まだ殴り足りなくてストレスを感じるけどね」

 そこでふと、アリスは思い出したんだ。
 以前の自分は、ストレスを売春によって解消していたってね。

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