薔薇とアリスと2人の王子
 アリスはすることも無いんで、二人の服を持ったまま、ぼうっと市場の人だかりを眺めてたよ。

 その時だ。
 市場の客達が何だかザワザワしてきたかと思うと、人だかりの中、馬車がやって来るのが見えたんだ。

「あの馬車は……?」

 近くにいた農夫に聞くと答えはすぐに返ってきた。

「ああ、この辺の領主のドナウアー家の馬車だよ。毎回通るたびに、物凄い勢いで市場に突っ込んでくるんで迷惑してんだ」

「ドナウアー家……?」

「こっちに来るよ」

 けたたましい音を立てながら馬車はアリスの方に向かってきた。

 大人しく見送ろうとしたんだけど、馬車がアリスの前を駆けたとたん――あまりの馬車の速さに、物凄い風がアリスを襲ったんだ!

「……あ!」

 一瞬のことだったよ。

 風でアリスの持つ、イヴァンとカールの上着が大きく舞ってね。
 なんて運が悪いんだろう。イヴァンの上着から、王家の紋章が刻まれた小箱がポロリと落ちて、そのまま馬車の荷台にすってんころん!

「待って、止まってー!」

 慌てたアリスが馬車を追いかけるも、轟音を響かせながら馬車は行ってしまったんだ。

「そんな……あの小箱にはロサ・アンジェラが……」

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