薔薇とアリスと2人の王子
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ところ変わって、ここは同じセンプリーチェの街の貴族のお屋敷。この街は王様の城があるっていうだけあり、貴族の屋敷も多くひしめいていてね。
「サンドリヨン! まだ床汚れてるわよ!」
家の娘がそう声をあげる。甲高く耳障りな声だよ。その声が屋敷中に響くと、みすぼらしい恰好の少女が大急ぎでどこからか駆けてきた。
彼女がサンドリヨン。
その名前には『灰かぶり』っていう意味があってね。
年頃の少女の名にしては酷いものだけど、彼女の姿を見たら納得するだろうね。
彼女の着ている服はくすんで雑巾の様だったし、茶色の髪だってボサボサ、頬は暖炉の煤で黒ずんでいるんだ。
少女はやや低く落ち着いた声で言った。
「でもお姉様、そこはさっき丹念に拭きました」
「だめ。やり直し」
「……はーい」
煤まみれの顔を拭い、彼女は床掃除を始めたよ。
――少女の本当の名は、ドリューっていう。
“ドリュー”をもじって、サンドリヨンとあだ名を付けたのは少女の継母だよ。