薔薇とアリスと2人の王子
傲慢な継母と姉さん2人のせいで、ドリューは人生を損している気分だよ。
それでも逆らえないのは大好きな父親のためだ。それに継母に本格的に嫌われて屋敷から追い出されでもしたら、たまったもんじゃない。
「ふん、でも今に見てなさい。もうすぐ王子様と結婚するんだから!」
彼女は雑巾を片手に、ウェーブの長い茶髪が逆立つほどに闘魂を燃やした。
王子様っていうのはこのミュールミューレの国の王子のことだけど、ドリューが王子と何があったかはまだ内緒。
ドリューが雑巾に怒りを込めて絞っていると、呼び鈴が屋敷に木霊した。
「はいはい~」
周りに継母達がいないのを良いことに面倒くさそうに返事をしてやる。
忌々しい継母と姉さん達がいない時くらいは素の自分を出したいのだ。
しかし扉を開けた途端、彼女はあまりの驚きに目をひん剥いたよ。
「ドリューという娘はいるか」
扉を開けた先にいたのは赤毛長髪の長身の男だった。赤毛ってのは珍しくて、そのうえ長髪なんだもの。ドリューはポカンと口を開けた。
言わずもがな、男はイヴァンだよ。
「……どちらさま?」
先ほどまでの素の顔を捨てると、ドリューは愛想よく男に言う。
男の後ろからヒョコっと出てきた幼女に、また驚いた。
「あなた王子のくせに挨拶もしないで! ごめんなさいね。ドリューさん呼んでもらえる?」