薔薇とアリスと2人の王子
 地球の最西端の国、ミュールミューレは小さな国だった。
 舞台はそのミュールミューレの中のはずれの町、トランクイロ。この田舎町は治安が悪いことで有名でね。“トランクイロ”ってのは“静か”って意味のはずなんだけど。
 この町の治安が悪いってのは、町全体が貧民街だからってことに理由があるんだ。貧しい人々が流れ着いてくるこの町には、ろくなやつが住んじゃいない。
 お金が無くて盗難をする人々ばかりだし、店を出したって寄るお客もいないんだ。


「アリス!今日、どうだ?まだ客いないだろ?」

 見るからに貧しげな家が立ち並ぶ一角。
 下品な笑いを漏らす中年男が、歩く少女に声をかけた。
 少女は振り向いて、幼いながらも艶やかにニコリと笑うとこう言ったよ。

「昨晩の客がしつこくて疲れてるの。また明日買って」
「ちっ、最近はお前ぐらいしか売ってる若い女いねーんだよ。ババアばっかで」
「売春は時代遅れだからよ」

 少女の名はアリス。アリス・リデルっていう。まだ十三歳の子供だ。
 何年も着まわしている水色のワンピースに、白いエプロンという出で立ちでね。金色で風に遊ばれている猫毛は、耳の下でゆるく二つに結われていた。蒼い瞳が中年男を捉えている。普通の、どこにでもいそうな少女だよ。
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