薔薇とアリスと2人の王子
でもアリスの生活っていうのがとんでもないものでね。
数年前に両親が死んでから、稼ぐために売春行為にあけ暮れているんだ。そのせいか、見た目は幼い少女でも、性格はドライなところがあるのがアリスって子だ。
「そういう事だからエドワード。私もう帰るわ」
アリスはもうずっと、まさしく何年も。心から笑ったことが無かったのさ。
だって家では一人ぼっちだし、会話するなんてお客の男達だけ。同年代の子供たちはこんな貧民街にはめったにいないし、笑い方すら忘れてしまっていたんだ。
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アリスは家へ帰ると、まず庭の鳩たちに餌をやる。
家って言ってもそれはもう貧相な家だよ。今ではアリス一人きりだしね。
レンガ造りの家が主流だっていうのに、アリスの家は木の板でツギハギだらけの壁。柱だって虫に食われて今にも倒れそうだ。台風にでも襲われたらたちまち吹き飛んでしまうだろうね。
町のはずれにあるものだから、家の隣はもう森だ。
この森を抜けると隣の街へ行けるようになっているんだけど、恐ろしい蛇の化物が出るってんで、『バジリスクの森』なんて呼ばれてる。バジリスクって、蛇の化物の名前だよ。
そんな恐ろしい森の真横にアリスの家があるんだけど、それをアリスは何とも思っちゃいない。
生まれた時からこの家に住んでいるものだから、真横が化物が出る森だってもう慣れてしまったよ。
「もう私に餌をもらいに来ちゃだめよ? もうあんた達にあげるパンすら無いのだから」
餌を撒きながら鳩に言った。