薔薇とアリスと2人の王子
シャルロッテの中には“優しいお母様”の記憶しかない。
お妃様が猫を被ってるのはイヴァンにだって分かったけど、シャルロッテの記憶が欠如しているんじゃ行動を起こしても意味がないんだ。
でもこのままだとシャルロッテは殺されるし、もしくは自分だってシャルロッテと結婚させられちゃうからね。
そうにかしてこの状況を打破しないといけない。
イヴァンは悩み始めた。
なにやら会話を続けているシャルロッテとお妃様の側を離れて、王室の中をウロウロと歩いてみる。
そして王室の扉を横切ったとき、聞き覚えのある声が聞こえた気がしたんだ。
「……何だ?」
イヴァンは耳を扉に近づけた。
「兄さん、僕です」
それは本当に小声だったけど、弟の声だとすぐに分かった。
「……カールか? なぜここに」
「なんだ。まだ生きてたんですね」
カールは鍵穴から王室を覗いていてさ。鍵穴から緑色の目が少しだけ見えている。
イヴァンは室内のお妃様たちの様子を窺いながら、カールと会話を続けた。
「妃はシャルロッテもろとも、兄さんを殺すつもりですよ」
「なんだと? 俺も殺されるのか」
「シャルロッテと逃げてください。彼女は記憶をなくして警戒心がないんですから、すぐに殺されちゃいますよ」