薔薇とアリスと2人の王子

「シャルロッテ!」
「兄さん!」

 アリスとカールが王室に飛び込んだのは、短剣が刺さって血飛沫が上がったのと同時だった。
 短剣はしっかりと心臓を捉えていた。しかし短剣が貫いたのはシャルロッテの身体では無かったんだ。

「なぜ、あなたが……」

 アリスは動揺を隠しきれず、慄いた。
 それはイヴァンも、カールも、シャルロッテも同じだった。
 シャルロッテが震える声で言った。

「あなたは…ハンス…?」

 口に出したのは、忘れてしまっていた、愛した人の名前だった。
 今度はカールが呟く。

「ハンスA――君は、小屋の部屋にいたはず……」

 お妃様の短剣は、ハンス(A)の胸に突き刺さっていたんだ。
 ハンスAが飛び込んできた王室の窓のガラスは粉々になっていた。

 きっと小さな身体で城の最上階まで上り、窓の外から様子を窺っていたんだね。
 たった1人で、愛するシャルロッテを追ってきたんだ。
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