薔薇とアリスと2人の王子
小さなハンスの身体からは耐えまなく血が溢れていた。
「ハンス……ハンス…わたし、思い出したぁ。わたしの王子様はハンスだったのにぃ…」
シャルロッテが小人の身体を抱き締める。
記憶が戻ったんだ。ポロポロと美しい慟哭の涙を流している。
少女の涙がハンスの血と混ざっても、ハンスは動かなかった。
お妃様はまさかの事態に青ざめていたよ。
「駄目だ、死んでる」
カールの言葉に、シャルロッテは泣くのをぴたりと止めた。
「シャルロッテ、ハンスはあなたを守ったのよ、本望だわ」
アリスが気遣う言葉をかける。
それを聞いているのか聞いていないのか、シャルロッテはフラフラと立ち上がって、未だ炎が灯されている暖炉の前に佇んだ。
そしてニッコリと笑顔をお妃様に向ける。
「ねぇ、お母様ぁ」
「何よ……?」
突然泣き止み、笑顔まで見せるシャルロッテにお妃様は動揺していた。
「あの毒林檎、お母様が持ってきたんですね~」
「それが何よ!」
「真っ赤な真っ赤な林檎、とても綺麗でしたぁ」
シャルロッテの可愛らしい笑み。でもその瞳は視点が合っていなくて、ちっとも笑っちゃいない。