薔薇とアリスと2人の王子

 でもアリスの声はシャルロッテに届いちゃいない。
 実の母親に鉄の靴を押し付けるシャルロッテの狂気染みた笑顔に、アリスはそれ以上動けなかった。

 肉の焼ける臭いが漂ってきて、アリス達は鼻と口を塞いだ。
 床をのたうち回っていたお妃様は靴を脱ごうと飛び上がった。
 でも立ち上がったところであまりの苦痛で靴を脱げるはずも無くってね。

「熱いー! 脱がせて、シャルロッテー!」

 お妃様はくるくる回りながら王室を真っ赤な靴で踊っていた。

「真っ赤な靴、とても似合いますわお母様~! ねぇ、ハンス。そう思うでしょ~?」

 もがき苦しむお妃様になど目もくれず、シャルロッテは冷たいハンスの隣に膝をついて愛する人に話しかけている。
 シャルロッテは涙を流しながら笑っていた。大きな瞳はどこも見ていない。

「シャルロッテ……」

 アリスの声は届いていなかった。

「ハンス~、この林檎、とても真っ赤で綺麗なのよぉ~。そこに置いてある籠から見つけたのぉ」

 シャルロッテは“あの”毒林檎を手にしていた。
 それを愛しそうに手で包んでいてさ。

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