クロスロード
「いたっ、何すんのよ千里!」
「空気読んでよ!!」
「え?……あ、もしかして友達ちゃんも翠君狙いだったりする!?」
カラーコンタクトの入ったグレーの瞳が私を映す。
どうやって答えたらいいのか分からなくて曖昧な笑顔しか作れない。
……でも、しょうがないよね。
婚約の事は極力秘密にしているし、彼と私が学校で一緒にいることはない。
言うまでもなく女の子の憧れの対象の彼が、私と婚約しているなんて誰も想像しない。
他の人からみれば彼に片想いしている女の子、として私は映るんだろうな。
……婚約のことは秘密にしたい。だけどこういう時、ちょっと辛い。
香織さんは何も悪くないのに、こんなとこ思う自分が一番嫌だ。
次々と湧き上がってくるどす黒い欲望が心を浸透していく。
自分でも気づけないほど、全く笑顔を見せられなかった。